セミナー・講演活動
2026/7/8
弊社代表 増田恵美が、観光の国際学会APTA 2026で登壇しました — 福岡大会レポート
2026年7月、福岡で開催されたAPTA(Asia Pacific Tourism Association)国際学会に、弊社代表の増田恵美が登壇いたしました。
世界各地から約250名が参加した3日間の大会で、登壇者のほとんどは大学教授や研究者でした。
日本からの参加者で、一般企業として登壇したのは数名のみ。
通訳案内士として20年以上、1,000本を超えるツアーを設計してきた増田が、現場の知見を学術論文として体系化し、国際学会の壇上に立ちました。

APTAとは
APTAは、アジア太平洋地域の観光研究における主要な国際学会です。
発表には論文の査読を経た採択が必要で、誰でも登壇できるわけではありません。
参加者の大半は大学や研究機関に所属する研究者であり、民間企業からの登壇は極めて異例のことです。

発表当日
増田の発表テーマは「From Experience to Stewardship — 体験から継承へ」。
地域の文化を次の世代へ継承するために必要な構造的条件を、20年以上の実務経験をもとに論文として体系化したものです(論文タイトル:Guideability As A Structural Condition For Cultural Succession In Tourism)。
制限時間は15分。
直前まで原稿の見直しを重ね、言葉を磨き続けました。
本番では、用意した原稿に加えてアドリブも交えながら、自身の言葉で発表を行いました。
研究者たちの発表が続く中で、現場の経験に基づく発表は異なる存在感を放っていました。

発表の内容
— なぜ「ガイドの問題」なのか
増田が学会で投げかけたのは、日本のインバウンド観光が抱える構造的な問題です。
日本政府観光局(JNTO)の2024年の調査によれば、日本のDMC(着地型旅行会社)の約90%が、海外の高付加価値旅行者からの依頼を断っています。
その最多の理由は「ガイドの手配ができないこと」でした。
しかし増田は、これを単なる「人材不足」の問題とは捉えません。
ガイド、地域の文化の担い手(職人・醸造家など)、そして地域DMC——この三者が連携して機能する構造が整っていないことが本質的な課題だと指摘します。
地域の文化を継承し続けるための構造的条件を、増田は「Guideability」と名づけました。
発表では、茨城県古河市で実施したFAMトリップ(視察旅行)の事例を紹介しました。
地域の酒蔵や和裁の専門学校を訪問するこのツアーでは、ガイド・地域の文化の担い手・地域DMCがそれぞれの役割を果たす体制が設計されていました。
訪問者を一時的なゲストとしてではなく、地域の内側に迎え入れる(Inclusion)
——その設計思想が、体験の質を支えていました。

気球が飛ばなかった朝
発表の中で、増田はひとつのエピソードを紹介しました。
2020年2月、都内の五つ星ホテルのチーフコンシェルジュたちが古河を訪れた日のことです。
目玉だった熱気球のフライトは、濃霧のため中止になりました。
しかし増田は、ツアーそのものを中止にはしませんでした。
コンシェルジュたちが確かめに来たのは「この町にゲストを任せられるか」であり、気球に乗ることではないと判断したからです。
バルーン基地では温かいコーヒーを用意し、飛行の仕組みを聞く時間に。
湿地帯を一望できる場所へ案内し、フライトで見えるはずだった景色を地上から共有しました。
さらに、参加者の一人がオランダ出身だとわかると、急遽、古河歴史博物館へ案内し、江戸時代のオランダとの交流を示す古地図を見せました。
いずれも当日の予定にはなかったものです。
こうした対応が可能だったのは、増田が地域の中に「開けられる扉」をいくつも準備していたからでした。
信頼は、すべてが順調なときではなく、何かが起きたときに生まれる。

視察後、チーフコンシェルジュはこう評価しています。
「Everything was in order.」
(すべてが整っていた)
属人的な「おもてなし」ではなく、再現性のある体制として受入環境が機能していたことを示す言葉です。
会場の反応
—「みんなでKogaに行きたいね」
発表が終わったとき、モデレーターを務めた教授がこう言いました。
「みんなでKogaに行きたいね」
会場からは賛同の声が上がりました。
理論を検証する場で、参加者が「行ってみたい」と口にする。
それは、研究者たちが「理論」としてではなく「現場」として古河に関心を持った瞬間でした。

さらに、増田の後に登壇した香港の教育機関の学科長は、自身の発表の中でこう語りました。
「研究はできても、実際にサービスや商品を作るのは地域の実務者。一緒にやっていくことが大切だ」。
増田の発表は、その後のセッション全体の文脈にも影響を与えていました。
学会後には、同じセッションに参加していた香港の教育機関の学科長から「増田さんの発表から多くを学んだ」「ぜひ日本へのスタディツアーを企画したい」といった感想が寄せられました。

政策より先に、現場があった
増田がGuideabilityの考え方を古河で実践し始めたのは、2020年から2021年にかけてのことです。
2021年には、観光庁が高付加価値旅行の分野において、増田の地域ガイド育成を含む包括的な受入モデルを全国で唯一の事例として選定しました。
そして、日本が「高付加価値旅行」を政策カテゴリとして正式に定義したのは、その翌年の2022年のことです。
政策が言葉にする前に、現場にはすでに実践がありました。
この発表が意味すること
増田が学会に持ち込んだのは、20年以上の現場経験から導き出した「地域の文化継承のための設計指針」です。
Guideabilityは学術概念であると同時に、地域が実際に使える設計の枠組みでもあります。優れたガイドが一人いなくなれば、文化への扉は閉ざされてしまう。
その力を個人ではなく地域全体に根づかせ、文化を継承し続けられる構造をつくる。それがGuideabilityの考え方です。
単なる語学研修とは異なる、高付加価値なガイド育成研修。
インバウンド受入体制の具体的な作り方。
文化を"消費"ではなく"継承"(Cultural Stewardship)として捉える視点。
——いずれも、増田が現場で積み上げてきた知見であり、この論文によって体系的な設計指針として共有可能なものとなりました。
増田は発表の最後にこう語りました。
「We don't design visits. We design inclusion.」
(私たちが設計するのは、訪問ではなく、受け入れです)
弊社では、この考え方をもとに、自治体・DMO・観光事業者の皆さまに対して受入体制の構築支援を行っております。
ご関心をお持ちの方は、お気軽にお問い合わせください。

増田恵美(ますだ めぐみ)
— 株式会社Musubi 代表取締役
全国通訳案内士(国家資格)。
20年以上にわたりスルーガイド兼旅行会社として、1,000本を超えるツアーを設計・実施。茨城県古河市を拠点に、地域の事業者と長年の信頼関係を築きながら活動している。
独自の方法論「Guideability(ガイダビリティ)」と「Local Inclusion Design(ローカルインクルージョンデザイン)」を体系化し、APTA 2026国際学会にて発表。
地域の受入体制構築・DMC機能整備・ガイド育成研修を専門とする。
都内五つ星ホテルのコンシェルジュから直接指名を受ける。
英国のクラシックカーラリーの日本国内ツアーを企画・実施するなど、海外の高付加価値層を全国各地の地方へ送り届けてきた。都市に偏りがちなラグジュアリー旅行を、地域の現場へと結び直してきた草分けの一人。
APTA 2026 プレゼンター
Guideability提唱者
Relational Luxury Practitioner
